障がいを持つ子どもたちが学校で適切な教育を受ける権利は、法的に保障されています。特に、通常学級への参加が望ましい場合、学校は「合理的配慮」と呼ばれる柔軟な対応をすることが求められます。このコラムでは、障がいのある子どもが通常学級を利用する場合における合理的配慮の申し出について、具体的な内容と手続きについて解説します。
障害のある子どもの教育を受ける権利
障害のある子どもたちは、差別されずにインクルーシブ教育を受ける権利があります。また、彼らにはそれぞれの障害に応じた適切な配慮が提供される権利もあります。これは、国際的な条約などによって認められています。
子どもの権利条約は、障害のある子どもたちについて、「社会への統合や個人の成長を促進する方法」による支援を求めており、社会への統合を妨げる教育を否定しています。つまり、彼らを社会に組み込むための教育が重要だとされています。
障害者権利条約
障害者権利条約は、インクルージョン(包括的な社会参加)を基本理念として掲げており、すべての権利と自由は障害のある人とない人が共に生活する中で実現されなければならないと規定しています。また、障害のある子どもたちの教育に関しては、彼らが一般的な教育制度から排除されないこと、自分たちの地域社会で受け入れられる教育を受けること、そして個々のニーズに合わせた適切な配慮が提供されることが必要だと定めています。さらに、合理的配慮を拒否することは差別にあたるとも明記されています。
こうした国際的な条約の要求を受けて、国内でも障害者基本法が制定されています。この法律では、「可能な限り障害のある子どもや生徒が障害のない子どもや生徒と一緒に教育を受けられるように配慮しなければならない」と規定されています。また、彼らや保護者の意向を「可能な限り尊重しなければならない」とも定められています。さらに、障害者差別解消法では差別の禁止と合理的配慮の提供義務が明確に規定されています。
就学決定手続の流れについて
市町村教育委員会は、10月31日までに、その地域に住んでいる就学予定者の学齢簿(10月1日現在)を作成します。そして、11月30日までに、就学前の健康診断を行います。
その後、市町村教育委員会は、認定特別支援学校以外の就学予定者に対して、1月31日までに入学日と就学する学校を通知します。認定特別支援学校就学者については、市町村教育委員会は、12月31日までに都道府県教育委員会にその情報を通知し、都道府県教育委員会は、1月31日までに保護者に入学日と特別支援学校を通知します。
就学先決定に当たっての留意点
前述の法体系に基づき、就学先の決定手続においても、本人および保護者の意向を最大限に考慮し、障害の状態、支援の内容、地域の教育環境の整備状況などを総合的に考慮する必要があります。
そのため、本人や保護者が通常学級を希望している場合に、彼らの意向に反して特別支援学校(学級)に就学を決定することは、国際的な条約や法体系に違反する可能性が高くなります。実際、国連障害者権利条約の総括所見では、「全ての障害のある子どもたちに通常学校を利用する機会を確保すること」と、「通常学校が障害のある生徒の通学を拒否することが認められないようにするための『非拒否』条項と政策の策定」が要請されています。
したがって、本人や保護者が通常学級で教育を受けることを希望している場合は、その希望に応じるように対応を検討する必要があります。
合理的配慮の提供義務について
学校が単に障害のある子どもを受け入れるだけでは、彼らが適切な教育を受けることはできません。前述したように、障害のある子どもが教育を受けるためには、「合理的配慮」というサポートが提供される必要があります。 合理的配慮の内容は個別性が高く、どのような配慮が必要かは、障害の種類だけでなく、その子自身の性格や周囲の環境などにもよります。また、その配慮を実施することで負担が過大になる場合には、その配慮を義務付けられるわけではありません。 裁判例では、例えば、感覚過敏がある子どもが給食を無理に食べさせられてPTSDを発症したケースでは、学校長には児童の特徴を考慮する義務があるとされ、市に対して損害賠償の支払いを命じる判決が出された事例もあります。
合理的配慮の提供を求める際の流れ
所属している学校(入学前の場合は入学予定の学校)に面談を申し込み、希望する合理的配慮を伝えます。障害の状況や配慮の必要性を理解してもらうために、医師の意見書などの資料が役立つ場合もあります。 実際には、さまざまな合理的配慮の方法が考えられますので、教員、本人、および保護者が協力して最適な方法を見つけるための相談が行われます。一つの方法がうまくいかなかった場合でも、教員や保護者が様々な工夫をしていることは、その子が学級内で尊重されていることを示し、自己肯定感や周囲の子どもたちからの肯定的な受け入れを促す役割も果たします。
提出先
通学する学校
提出書類
配慮してもらいたい事項を記載した書類など(形式は問わない)
添付書類
医師の意見書など
関連法令等
障害者権利条約2・3・24、2022年9月障害者権利委員会総括所見52項(b)、子どもの権利条約23、障害基16、障害者差別解消7、学教令2・5・11・14、学校教育法施行令の一部改正について(平25・9・1 25文科初655)、学保安11
提出先 | 通学する学校 |
提出書類 | 配慮してもらいたい事項を記載した書類など(形式は問わない) |
添付書類 | 医師の意見書など |
関連法令等 | 障害者権利条約2・3・24、2022年9月障害者権利委員会総括所見52項(b)、子どもの権利条約23、障害基16、障害者差別解消7、学教令2・5・11・14、学校教育法施行令の一部改正について(平25・9・1 25文科初655)、学保安11 |
まとめ
障がいのある子どもが通常学級で学ぶことは、包括的で多様性を尊重する教育の一環です。合理的配慮の申し出を通じて、子どもの学習や社会参加の機会を最大限に引き出すことが目指されます。保護者や教育関係者は、この申し出の手続きを理解し、子どもの権利を守るために積極的に関与することが重要です。学校と保護者の協力により、障がいのある子どもたちは豊かな学びの環境で成長し、自己実現を追求することができるでしょう。
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