離婚や別居などで子の引渡しに問題が生じることは、子供と親の関係に影響を及ぼす悩ましい課題です。調停や審判、判決による決定があっても、時には親が自発的に子供を引き渡さないことがあります。こうした場合、強制執行と履行勧告という2つの方法が考えられます。本コラムでは、子の引渡し問題を解決するための道として、強制執行と履行勧告の違いや特徴、利用時のポイントについて探ってみましょう。
子の引渡しに関する強制執行の方法について
強制執行の必要性
調停・審判・判決によって子の引渡しが決定されたにもかかわらず、親(債務者・義務者)が自発的に子を引き渡さない場合、権利を持つ親(債権者・権利者)は強制執行(間接強制・直接強制)の手続きをとる必要があります。令和元年の民事執行法改正により、直接強制が明確に定められました。
間接強制
間接強制は、債務者に対して一定の期間内に子の引渡しを行わなければ、償務(引渡し義務)に対して別途罰金を課す手続きです。これにより、債務者に心理的な圧迫をかけ、自発的な引渡しを促すことを目指します。償務者には審尋を行い、陳述する機会を与える必要があります。
強制執行手続きによって、親と子供との引渡しの問題を法的に解決することができます。親と子供の福祉を考慮しながら、子供の権利を保護し、適切な対応が求められます。引渡しの手続きには専門的な知識が必要な場合があるため、弁護士などの専門家の支援を受けることが重要です。
直接強制
直接強制は、以下の場合に認められます
- 間接強制の決定が確定してから2週間が経過した場合。(決定に定められた期間の経過後)
- 間接強制を実施しても、債務者が子の監護を解く意向が見込めない場合。
- 子の危険を防止するために直ちに強制執行が必要な場合。
まず、債権者は、執行官に子の引渡しを実施させる決定を申請します。家庭裁判所は、債権者の申請に理由があると認める場合は、執行官に対して債務者が子の監護を解くために必要な措置を命じる引渡し実施決定を行います。直接強制の場合でも債務者の審尋が行われる必要がありますが、急な子供の危険がある場合やその他の事情により審尋が不要とされることもあります。
引渡し実施決定を得た後、債権者は執行官に対して引渡しを実施するよう申請します。通常、執行は債務者の住居などの場所で実施されますが、第三者が占有する場所での執行や債権者の代理人が出頭して執行する場合も認められることがあります。
執行官は債務者の住居などに入り込んで子の捜索を行い、債務者が子の監護を解くことによって、子供の引渡しを実現します。子供の福祉を考慮し、法的手続きを遵守しつつ、引渡しの実施が行われます。
履行勧告
履行勧告は、強制執行ではない方法の一つです。調停・審判・判決などで決まった義務を履行しない人に対して、家庭裁判所の調査官や書記官が書面または口頭で義務を履行するように勧告する制度です。
履行勧告は、費用がかからず、申し立ての回数も制限されていないため、手続きが比較的簡単で利用しやすい特徴があります。しかし、債務者が裁判所の連絡に応じないことも多いため、その場合には強制執行の手続きを取る必要があります。
つまり、履行勧告は通常は協力的な当事者に対して有効な手段であり、費用や手続きの煩わしさを避けることができます。しかし、相手方が協力的でない場合には、強制執行の方法を検討する必要があるということです。
履行勧告を通じて、調停・審判・判決に基づいた義務の履行を促し、円滑な解決を図ることができることが期待されますが、場合によっては強制執行を選択することが重要です。
申立てまでの流れ
申立先
調停、審判又は判決等をした家庭裁判所
提出書類
- (間接強制)間接強制申立書
- (直接強制)執行官に子の引渡しを実施させる決定申立書、引渡実施の申立書
添付書類
- 間接強制と直接強制に共通する資料
執行力のある債務名義(調停調書、審判書又は判決書等)の正本、償務名義の送達証明書、償務名義の確定証明書 - 収入印紙2,000円分、郵便切手
- 間接強制の場合、債務者の資産・収入を裏付ける資料
- 執行官に子の引渡しを実施させる決定申立書については、①間接強制決定の確定日から2週間を経過したとき又は同決定において定められた債務を履行すべき一定の期間の経過がこれより後である場合にはその期間を経過したとき、②間接強制による強制執行を実施しても貸務者が子の監護を解く見込みがあるとは認められないとき、③子の急迫の危険を防止するために直ちに強制執行をする必要があるときを立証する資料
- 引渡実施の申立てについては、実施決定の正本、債務者及び子の写真などこれらの者を認識することができる資料、債務者及び子の生活状況に関する資料、占有者の同意に代わる許可を受けたことを証する文書、債権者の代理人が執行場所において出頭した場合においても引渡実施をすることができる旨の決定の謄本
関連法令等
申立先 | 調停、審判又は判決等をした家庭裁判所 |
提出書類 | ・(間接強制)間接強制申立書 ・(直接強制)執行官に子の引渡しを実施させる決定申立書、引渡実施の申立書 |
添付書類 | ・間接強制と直接強制に共通する資料 執行力のある債務名義(調停調書、審判書又は判決書等)の正本、償務名義の送達証明書、償務名義の確定証明書 ・収入印紙2,000円分、郵便切手 ・間接強制の場合、債務者の資産・収入を裏付ける資料 ・執行官に子の引渡しを実施させる決定申立書については、①間接強制決定の確定日から2週間を経過したとき又は同決定において定められた債務を履行すべき一定の期間の経過がこれより後である場合にはその期間を経過したとき、②間接強制による強制執行を実施しても貸務者が子の監護を解く見込みがあるとは認められないとき、③子の急迫の危険を防止するために直ちに強制執行をする必要があるときを立証する資料 ・引渡実施の申立てについては、実施決定の正本、債務者及び子の写真などこれらの者を認識することができる資料、債務者及び子の生活状況に関する資料、占有者の同意に代わる許可を受けたことを証する文書、債権者の代理人が執行場所において出頭した場合においても引渡実施をすることができる旨の決定の謄本 |
関連法令等 | 民執172・174・175、家289 |
まとめ
子の引渡し問題は、子供と親の幸福を考える上で非常に重要なテーマです。調停・審判・判決による決定が上手くいかない場合には、強制執行と履行勧告が有効な手段として選択できます。ただし、各方法にはそれぞれ利点と注意点があり、状況に応じて適切な選択をすることが大切です。子供の福祉を最優先に考えながら、家族の円満な関係を築くためにも、法的手続きには専門家のサポートを得ることをおすすめします。
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