第1 はじめに
結婚生活を送る中で、夫婦は共同で様々な財産を築いていきます。しかし、時には結婚生活が破綻し、離婚を迫られることもあります。この際、最も注目されるのが「財産分与」です。財産分与は、夫婦が共有していた財産をどのように分けるかを決定する過程で、その結果は離婚後の生活に大きな影響を及ぼします。
本コラムでは、財産分与について詳しく探求し、その重要性、決定方法、そして留意すべきポイントについて深堀りしていきます。夫婦の関係が終了する際に、公平かつ適切な方法で財産を分けることは、離婚後の新たなスタートをスムーズに切り開くために不可欠です。
離婚に直面したり、財産分与について疑問を抱いたりしている方々にとって、このコラムが情報提供や指針となり、難しい決断をする手助けとなれば幸いです。
第2 財産分与とは
財産分与は、離婚時に夫婦が共同で築いた財産を公平に分けるプロセスです。
財産分与の法的根拠は、法律(民法)によって規定されています。民法では、夫婦が離婚する場合、片方が相手に対して財産分与を請求できる権利があります(768条1項)。一般的に、民法では夫婦がそれぞれ独立して財産を所有する「夫婦別産制」を採用しています(762条1項)。しかし、結婚生活の中で共同で築いた財産は、名義が一方のものであっても、実質的には夫婦の共有財産とみなされます。結婚中はこれは問題ありませんが、離婚時には共有財産の整理が必要です。
つまり、財産分与の目的は、離婚時に夫婦が共同で所有している財産を分け合い、清算することで、公平な解決を図ることです。結婚中は共有財産があっても問題ありませんが、離婚時には共有財産を公平に分割し、整理する必要があるのです。
第3 財産分与の割合ー原則
財産分与の割合について、基本的な原則は「2分の1ルール」です。これは、離婚時に夫婦が共有している財産を半分ずつ分けるという考え方です。
この2分の1の割合の根拠は、夫婦が共同で財産を築いてきたという事実に基づいています。財産を築くのには、収入を得ることや家事労働など、夫婦双方が協力して寄与してきた要素が含まれます。しかし、具体的な寄与度合いを計るのは難しく、夫婦の協力と共同生活の性質を考慮すると、平等に分けるのが公平だとされています。
例えば、一方が収入を得ていても、もう一方が家事や育児を担当している場合、その協力が収入を得ることと同様に貢献と見なされます。共働きの場合でも、お互いが役割分担し合って家計を支えているとみなされ、収入差があっても財産分与は基本的に2分の1と考えられます。
要するに、財産分与の基本原則は、夫婦間での平等と公平を尊重し、共同で築いた財産を半分ずつ分けることです。
第4 財産分与割合の変更
財産分与の割合は通常、2分の1が原則ですが、特定の状況下では割合を変更することが認められることがあります。以下は、割合変更が認められるケースについての説明です。
1特殊な才能や能力による財産形成:
一方の夫婦が特別な才能や資格によって高収入を得た場合、その特殊な能力が財産形成に大きく貢献したと認められることがあります。例えば、医師や弁護士などの資格によって高収入を得ている場合、その専門知識や努力が貢献度を高め、財産分与の割合を修正する可能性があります。
2浪費行為の影響:
一方の夫婦が浪費行為や無駄遣いによって財産を減少させた場合、その浪費が財産分与に影響を及ぼすことがあります。例えば、ギャンブルや高額な消費によって共有財産が減少した場合、浪費行為を行った側の財産分与割合は低くなることが考えられます。
3特有財産の影響:
婚姻期間中に特有財産(個人的に所有していた財産)を元手にして財産を形成した場合、その特有財産が財産分与に影響を与えることがあります。特有財産から派生した利益や収益は、財産形成における貢献度を示すため、財産分与割合が変更されることがあります。ただし、特有財産と共有財産が混在している場合、分離することが難しいため、原則として共有財産として扱われます。
これらのケースでは、財産分与の割合が通常の2分の1から変更され、財産形成に対する貢献度や特別な事情が考慮されます。ただし、具体的な割合変更は裁判所の判断に依存し、個別の事情に応じて変動することがあります。
第5 財産分与の対象財産
財産分与を行う際には、以下のような財産が対象となります。これらは夫婦が結婚生活の中で共同で築いた財産です。
1預貯金:
夫婦が共同で管理している銀行口座の残高や、それぞれが婚姻後に個別に貯めたお金が含まれます。ただし、婚姻前に持っていた貯金や遺産相続によって得たお金は特有財産とされ、財産分与には含まれません。
2保険:
積み立て型の保険で生じる解約返戻金が財産分与の対象となります。ただし、親が加入した保険や婚姻前から持っていた保険の解約返戻金は特有財産とされ、財産分与には含まれません。
3株式:
婚姻後に取得した株式は財産分与の対象となり、その時点の時価を基準として計算されます。婚姻前に持っていた株式は通常、財産分与には含まれません。
4自動車:
婚姻後に取得した自動車は財産分与の対象となり、査定額が基準とされます。ただし、車に残っているローンが査定額を上回る場合、その差額は財産とはみなされません。また、結婚前に購入した車や相続によって得た車は特有財産として扱われ、分与の対象外です。
5不動産:
婚姻後に購入した不動産は財産分与の対象となり、売却時の評価額が考慮されます。ただし、不動産に残っているローンが評価額を上回る場合、その超過分は財産分与には含まれません。
6年金:
婚姻期間中に支払った年金が財産分与の対象となり、年金分割制度を利用して分割されることがあります。ただし、国民年金はこの対象外です。
7債務(マイナスの財産):
婚姻中に発生した借金やローンも財産分与の対象ですが、共有財産からマイナスの財産分を差し引いて計算されます。ただし、個別に作成された借金については、支払い責任を負った本人が対処しなければなりません。
以上が、財産分与の際に考慮される主要な対象財産です。特有財産や個別の事情に応じて、財産分与の具体的な計算が行われます。
第6 財産分与割合を決める方法
財産分与の割合は法律で厳格に規定されているわけではなく、夫婦の合意によって決まる重要な要素です。以下は、財産分与の割合を決める方法についての説明です。
1当事者での話し合い:
最初に考慮すべき方法は、夫婦間での協議です。双方が合意すれば、どのような割合で財産を分けるかを決めることができます。この合意は、公正証書に記載することがおすすめです。公正証書にすることで、後に紛争が生じた場合に法的に強制力を持つ証拠となります。そのため、約束が守られない場合でも、強制執行手続きを迅速に行えます。
2話し合いが難しい場合は調停へ:
夫婦の協議が難航する場合、家庭裁判所での調停手続きを検討します。調停手続きでは、裁判官または調停委員(専門家)が仲裁役として関与し、再度話し合いを試みます。調停委員は中立な立場から、法律や裁判例に基づいた提案を提示してくれます。第三者が介入することで感情的な対立を和らげ、合意に到達する可能性が高まります。
3離婚成立後の調停が不成立なら審判へ:
離婚成立後に財産分与の調停が合意に達しない場合、自動的に審判手続きに移行します。審判手続きでは、裁判所が双方の主張を詳細に審査し、最終的な決定を下します。この際、裁判所の判断に従うことになります。不服がある場合は、一定期間内に抗告手続きを行い、高等裁判所に再審理を申し立てることも可能です。
4離婚前の調停が不成立の場合は訴訟提起:
離婚前における夫婦関係調整調停が不成立した場合、審判には進まず、代わりに訴訟を起こすことになります。この場合、地方裁判所に対し「離婚請求事件」として訴状を提出し、財産分与の割合を含む離婚関連の争いを法的に解決します。
財産分与の割合を決める際には、最初は当事者間の話し合いが重要ですが、協議が不調に終わる場合でも法的な手続きを通じて公平な解決が求められます。どの方法を選ぶにせよ、公正な結果を得るためには専門家の助言を受けることも考慮する価値があります。
第7 財産分与の割合を決するにつき、弁護士に依頼するメリット
財産分与の割合は、法律上は2分の1が原則ですが、個別の事情によっては適正な割合の修正が必要な場合もあります。しかし、この適正な割合を決定するのは簡単なことではありません。弁護士に相談することで、以下の利点が得られます。
1個別の事情への対応:
弁護士は個々の事情を詳細に考慮し、適切な割合を提案します。これにより、公平かつ正当な財産分与を実現できます。
2論理的な説明:
弁護士は判例や法律に基づいて割合を説明し、なぜその割合が適正であるかを論理的に示してくれます。相手方も納得しやすくなります。
3隠し財産の発見:
弁護士は専門的な方法で相手方の財産調査を行うことができます。隠し財産がある場合でも見つけ出すのに役立ちます。
4手続きの代理:
弁護士は調停や裁判の手続きを代理で行ってくれるため、負担が軽減されます。また、法的な主張もプロの手に任せられます。
弁護士に依頼することで、財産分与の問題に対処し、円滑な解決を図る道が開けます。感情的な負担を減らし、公平な結末に向けて進むための有力なサポートとなるでしょう。
第8 まとめ
まとめ: 財産分与の公平と新たな出発
財産分与は離婚手続きにおいて不可欠な一環です。夫婦が共同で築いた財産を分けることは、しばしば感情的な困難さを伴いますが、公平で適切な方法で行うことが、新たな出発を切り開く第一歩となります。
このコラムで学んだように、財産分与の割合は夫婦の合意や調停、裁判所の判断を通じて決まります。公平さと正義を
持って、最終的な決定が下される際には、法的なアドバイスを受けることが重要です。また、感情的な対立を最小限に抑え、協力的なアプローチを心がけることも、円満な解決への鍵となります。
離婚や財産分与は、誰にとっても難しい局面ですが、冷静に、かつ相手を尊重しながら進めることが大切です。最終的な目標は、双方にとって公平で満足のいく結末を見つけ、新しい人生に向けて前進することです。
離婚に伴う財産分与は、法的なプロセスでありながら、感情的な側面も大きく関与します。しかし、適切なサポートを受け、冷静に問題を解決する努力を惜しまなければ、新しい始まりへの道が開けることでしょう。未来に向けての新たなステージで、幸せを見つけることを願っています。
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