離婚は人生の大きな転機であり、多くの変化を伴います。特に、財産分与は離婚手続きの中で最も緊張感のある部分の一つです。このコラムでは、離婚時の財産分与の基本原則と、その過程をスムーズに進めるための賢いアプローチについて解説します。知識は力です。適切な情報を手に入れ、離婚手続きを自信を持って進めましょう。
離婚時の財産分与について
財産分与とは、結婚生活中に夫婦が共に築いた財産を、離婚時にどちらがどれだけ貢献したかに基づいて分けることを指します。日本の民法第768条1項では、離婚の際に相手方から財産の分与を求めることができると定められています。
離婚の手続きを急ぐと、共有の財産に関する詳細な取り決めをせずに離婚してしまうことがあります。これにより、本来受け取るべき財産を失うリスクがあります。しかし、財産分与は法的に保障された権利なので、正しく手続きを行うことが非常に重要です。
財産分与の3つの主要なタイプ
財産分与には主に3つの異なる形があります。
分与のタイプ | 説明 |
---|---|
清算的財産分与 | 結婚中に夫婦で築いた財産を離婚時に分割する。婚姻期間中に形成された財産の公平な分割を目指す。 |
扶養的財産分与 | 経済的に困難な状況になる可能性がある(元)配偶者の生活を支援するために行う。 |
慰謝料的財産分与 | 離婚の原因となった行為(例えば不倫)による精神的な苦痛を補償するために行う。 |
清算的財産分与
財産分与の中で最も重要なのが清算的財産分与です。これは、夫婦が結婚中に共同で築き上げた財産(家や車、貯金など)を、誰の名義であっても「夫婦共有の財産」として考え、公平に分ける方法です。離婚の原因に関係なく、双方が共に築いた財産を分割するのが原則です。
扶養的財産分与
扶養的財産分与は、離婚によって経済的に困窮する恐れがある配偶者を支援するための分与です。例えば、病気で働けない、専業主婦(主夫)である、高齢であるといった場合に適用されます。経済的に安定した配偶者が、もう一方を経済的に支えるために一定額を定期的に支払うことが一般的です。
慰謝料的財産分与
慰謝料的財産分与は、慰謝料の支払いを含む財産分与です。離婚の際に慰謝料が問題となる場合、慰謝料と財産分与は本来は別々に算出されますが、実際にはこれらを一緒にして「財産分与」として扱うことがあります。この場合、財産分与は慰謝料を含むことを意味しており、「慰謝料的財産分与」と呼ばれます。
財産分与の対象となる財産
財産分与を行う際には、分けるべき財産を正確に把握することが重要です。見落としがあると、後で「損をした」と感じることがあり、その時には取り返しがつかなくなることもあります。
財産分与の対象となる財産は大きく2つに分けられます。
共有財産
結婚中に夫婦が共同で築き上げた財産で、共有財産として分割されます。財産の名義は問わず、夫婦が一緒に形成・維持してきたものであれば対象となります。共有財産には、共同名義の不動産、家具、家財、一方の名義の預貯金や車、有価証券、保険解約返戻金、退職金などが含まれます。別居時点での財産が基準となり、別居後に取得した財産は対象外となります。
特有財産
特有財産は、婚姻前から一方が持っていた財産や、婚姻中でも夫婦の協力によらずに得た財産です。例としては、独身時代の定期預金や相続によって得た不動産が挙げられます。ただし、婚姻中に価値が増したり、維持されたりした場合、貢献度に応じて分与の対象となることもあります。
債務の扱い
夫婦の共同生活のために生じた借金(例えば、住宅ローン)は共同の債務として財産分与で考慮されます。しかし、個人的な理由(例えば、趣味のための借金)で作られた借金は、通常、財産分与の対象にはなりません。実際の手続きでは、夫婦の共有財産(プラスの財産)と共同生活のための債務(マイナスの財産)を考慮し、プラスの財産からマイナスの財産を差し引いた残額を分配するのが一般的です。
財産分与の割合の決定
財産分与の対象財産が決まったら、次はそれをどのような割合で分配するかを決めます。一般的には、夫婦が財産の形成や維持にどれだけ貢献したかを基にして割合を決定し、多くの場合、財産は半分ずつに分けられます。
専業主婦の場合の考慮
専業主婦の方々は、「収入は夫が得たものだから」と躊躇することがありますが、夫が外で働き、妻が家庭を守るという共同の貢献があるため、財産分与の割合は原則として半分ずつとなります。
割合の調整の可能性
ただし、特定の事案においては、割合が変更されることもあります。例えば、一方の配偶者の特別な努力や能力により高額な財産が形成された場合、その努力を考慮して分配割合を調整することがあります。したがって、財産分与の割合は具体的な状況に応じて変わることがあることを理解しておくことが大切です。
財産分与の実施方法
財産分与はさまざまな方法で行うことが可能です。以下はその例です。
- 不動産や自動車などの財産を一方が保持し、その代わりにもう一方に金銭を支払う。
- 対象となる財産を売却し、その利益を分け合う。
- 実際の財産(現物)を分与する。
財産分与の取り決め方法
財産分与の取り決めは、次のような手順で進めます。
- 協議による取り決め
まずは、夫婦間で話し合いを行います。財産分与は双方が合意すれば自由に定めることができるので、話し合いで決めるのが最も簡単な方法です。
- 弁護士の介入
ただし、財産分与が複雑な場合は、弁護士の介入が推奨されます。これにより、財産の漏れや計算ミスを防ぎます。
- 裁判所を通じた手続き
夫婦間の話し合いで決まらない場合は、離婚調停や離婚訴訟を通して決めることになります。この場合、専門的な知識が必要になるため、弁護士への相談が強く推奨されます。
財産分与の適切な時期
通常、財産分与は離婚時に一緒に行うものです。しかし、離婚時に財産分与の取り決めをしていなくても、離婚後でも財産分与の請求は可能です。ただし、この請求は離婚から2年以内に行う必要があります(民法第768条2項ただし書きに基づく)。
2年間という期限は、思ったより早く過ぎ去る可能性があります。離婚後はお互いに連絡を取りにくくなることが多く、財産の確認が難しくなったり、財産が散逸したりするリスクがあります。そのため、できれば離婚時にしっかりと財産分与の取り決めをしておくことが望ましいです。
まとめ
私たちの生活には予期せぬ変化がつきものですが、適切な準備と理解があれば、これらの変化にも効果的に対処できます。離婚という重大な決断に際して、財産分与は公平であるべきです。このコラムを通じて、離婚手続きにおける財産分与の重要性を理解し、それに備えることで、あなたの新しい人生のスタートをより安心なものにすることができるでしょう。