
障がい者の親が亡くなった後、その未来に不安を感じることはよくあることです。しかし、計画的な対策を講じることで、障がい者の未来を明るく見据えることができます。このコラムでは、障がい者の親亡き後の備えについて、段階的なステップをご紹介します。これらのステップは、親の資産管理から法的手続きまで包括的にカバーしており、障がい者や家族が安心な未来を築くための指南書となることでしょう。
障がい者の収入を確認しよう
障害者の親が亡くなった後の準備に向けて、どれだけの収入や財産が必要かを理解するためには、障害者自身が親や家族からの経済的な援助なしで生活できるかを把握することが大切です。このために、まずは障害者本人の収入と支出を確認する必要があります。
成人の障害者であれば、親や家族が本人の収入を確認することはできるかもしれません。しかし、未成年の場合、障害者本人の収入はほとんどないかもしれません。このような場合、現在の収入データをもとに将来の収入を予測する必要があります。
障がい者の一般的な収入
障害者の収入としては、以下の4つが一般的です。
- 障害年金
- 就労による収入
- 公的手当
- 生活保護
障害基礎年金の受給額
障害基礎年金の支給額は、日本年金機構によれば、2022年4月時点で次の通りです。
等級 | 月額 | 年額 |
---|---|---|
1級 | 8万1020円 | 97万2250円 |
2級 | 6万4816円 | 77万7800円 |
就労による平均収入
障害者の就労には、障害者雇用と福祉的就労が含まれます。障害者雇用の平均賃金は、2018年の厚生労働省調査「平成 30 年度障害者雇用実態調査結果」によれば次の通りです。
種別 | 月額 |
---|---|
身体障害 | 21万5000円 |
知的障害 | 11万7000円 |
精神障害 | 12万5000円 |
福祉的就労では、就労継続支援A型とB型の平均賃金は、厚生労働省の報告「令和2年度工賃(賃金)の実績について」によれば次の通りです。
種別 | 月額 |
---|---|
就労継続支援A型 | 7万9625円 |
就労継続支援B型 | 1万5776円 |
公的手当の支給額
20歳以上の障害者が受けられる代表的な手当は、以下の2つです。これらは主に重度の障害者に支給されます。2022年4月時点の支給額は次の通りです。
種別 | 月額 |
---|---|
特別障害者手当 | 2万7300円 |
在宅重度障害者手当 | 5000円 ※自治体によって異なります |
生活保護のサポート額
生活保護は、最低限の健康と文化的な生活を維持するために、収入が不足している人々に支給される制度です。最低生活費は地域によって異なるため、家賃や地域に合わせて支援額が調整されます。ただし、一部の障害者は生活保護を受けることができない場合もあります。
最低生活費を上回るが支援を受けるタイプ
以下のケースでは、最低生活費を上回る収入がありますが、一部の支援を受けることができます。
- 障害基礎年金 + 障害者雇用
- 障害基礎年金 + 就労継続支援A型
最低生活費を下回るが支援を受けられないタイプ
以下のケースでは、最低生活費を下回る収入があるため、生活保護を受けられないかもしれません。
- 障害基礎年金を受給できない知的障害者や精神障害者
- 障害基礎年金 + 就労継続支援B型(生活介護)
- 障害基礎年金 + 公的手当の障害者
- 障害基礎年金のみ
※こちらの情報は2022年4月時点のものです。最新の情報は関連する公的機関で確認しましょう。
障害者の支出を理解しよう
障害者の収入を把握できたら、次は支出のことを考えます。成人の障害者で、自分で生活している人は、自分のお金の使い方を分かっているかもしれません。しかし、親と一緒に住んでいる場合や未成年の場合、障害者自身と家族のお金の使い方を分けることが難しいこともあります。そのような場合には、支出も予測することになります。
障害者の支出には、住む場所や食事にかかる費用、それ以外の費用と分けるとわかりやすいです。住む場所や食事にかかる費用は、障害者がどこに住んでいるかによって異なります。以下の3つの場所に住む障害者がいます。
- 障害者支援施設
- 障害者のグループホーム
- ひとり暮らし
これらの場所によって、住む場所や食事にかかる費用が違います。簡単に紹介します。
障害者支援施設の場合
障害者支援施設に住んでいる人は、負担軽減措置(補足給付)によって、障害基礎年金の範囲内で調整されます。具体的には、住む場所や食事、障害福祉サービスの利用料を障害基礎年金から支払っても、手元に2万5000円程度残ります。
障害者のグループホーム
障害者のグループホームを利用している人の負担額は、調査によれば、53.5%が6万円未満です。6万円未満なら、障害基礎年金2級の範囲内で支えられます。ただし、都市部の場合、利用者負担額が8万円を超えることもあり、障害基礎年金だけでは不足します。
ひとり暮らし
知的障害者や精神障害者が一人暮らしする場合、住む場所や食事にかかる費用はわかりにくいです。平均的な単身者の支出を考えてみましょう。2021年のデータによれば、単身者の年間支出は約186万円で、月額に換算すると約15万5000円です。その内訳は、住まいや食事に関わる支出が次の通りです。
項目 | 金額 |
---|---|
住居 | 約2万2000円 |
光熱・水道 | 約1万1000円 |
食費 | 約4万2000円 |
日用品 | 約6000円 |
合計 | 約8万1000円 |
ただし、このデータは全国平均で、住まいにかかる費用は地域によって異なるため、注意が必要です。都市部では、住まいに5万円ほど必要な場合もあります。とにかく、一人暮らしの場合は、障害基礎年金だけでは足りず、生活保護の最低生活費を上回ることがわかります。
住まいや食事以外の費用
住まいや食事以外の費用については、人によって違いがありますが、先ほどの単身者の支出を参考にするといいでしょう。単身世帯の支出は約15万5000円で、その内訳は住まいや食事に関連する支出が約8万1000円です。したがって、残りの費用は約7万4000円ということになります。
ただし、知的障害者や精神障害者の場合、健常者がかかえない費用があります。具体的には、障害福祉サービスの利用者負担分や成年後見制度の費用です。
障害者の親が亡くなった後、どれくらいの期間お金が必要?
これまでの説明から、障害者ご本人の毎月のお金の収入と支出がわかるようになりました。生活保護を受けていない限り、収入が支出よりも少ない状況(赤字)の障害者は多いと考えられます。この赤字の部分をカバーできるだけのお金や財産があれば、障害者の親が亡くなった後のお金の心配を軽減できます。では、その赤字の部分をカバーするために、どのくらいの期間にわたるお金が必要なのでしょうか。障害者の親が亡くなった後、どのくらいの年数を考えるべきか、予測してみましょう。
障害者の親が亡くなった後の期間は、以下の式を使って予測できます。
障害者の親が亡くなった後の年数 = 親の平均余命 – 障害者の平均余命
障害者の親の平均余命
親が特別な健康問題や障害を抱えていない場合、簡易生命表(2020年度版はこちら)を元に、親の平均余命を知ることができます。
障害者の平均余命
ただし、障害者の平均余命は、健常者とは異なる可能性があるため、注意が必要です。例えば、2019年の障害者白書によれば、65歳以上の障害者の割合は次のように示されています。
種別 | 65歳以上の割合 |
---|---|
身体障害 | 72.6% |
知的障害 | 15.5% |
精神障害 | 37.2% |
身体障害者の場合、65歳以上の割合が多いことは、年齢と身体障害の関連性から理解できます。ただし、知的障害者の場合、65歳以上の割合は精神障害者の半分以下です。
このように、障害者の平均余命は障害の種類によって変わることがわかります。知的障害や精神障害によっても平均余命は異なるでしょう。医療や福祉の進歩によって、知的障害者の平均余命も延びる可能性はあります。ただし、現時点では、一般的な日本人の平均余命よりも15年から20年短いと予測されます。
障害者の親が亡くなった後に必要なお金を計算しよう
障害者ご本人のお金の収入と支出、そして親亡き後の期間が把握できたら、親が亡くなった後に心配せずに生活するために、どのくらいのお金が必要かを予測できます。その計算方法は、以下の通りです。
赤字の部分の支出 × 12か月 × 親亡くなった後の年数
すでに自分で生活している障害者の場合は、この式を使って、必要なお金の額を計算できます。ただし、親と一緒に住んでいる場合は、将来の予測が重要になるので、注意が必要です。
障害者支援施設での入所を考える場合
障害者家族が、障害者支援施設での入所を考える場合、障害基礎年金の範囲内で生活することができるので、親が亡くなった後に多額のお金を用意する必要はありません。ただし、障害者支援施設への入所には、時には百万単位の寄付が必要になる場合もあるので、そのことも考慮が必要です。
障害者グループホームを利用する場合
障害者家族が、障害者グループホームを利用する場合、まずは支出の予想を生活保護の最低生活費か、単身者の平均支出に合わせます。それから、障害の程度によって収入を見積もります。この2つの差額が、障害者ご本人のお金の収入と支出の差(赤字)になります。
一人暮らしを考える場合
障害者家族が、一人暮らしを希望する場合、まず収入の予想は障害者グループホームと同様に行います。支出の予想については、生活保護の最低生活費か、単身者の平均支出を使いますが、注意が必要です。親が所有する家を使うかどうかも重要です。賃貸を考える場合には、その地域の家賃相場を調べて、支出の予想を修正します。
お金の準備をする方法
これまでの説明で、障害者の親が亡くなった後、どれくらいのお金を用意すべきか、大まかな目安を知ることができました。次のステップは、そのお金をどのように用意するか、つまり資産をどう築いていくかを考えましょう。
親の老後にも注意を払う
ここで忘れてはならないのは、障害者の親の老後に必要なお金も考慮することです。親の老後にもお金が必要ですので、そのことを頭に入れておきましょう。
また、親が持ち家を所有している場合、その影響も考える必要があります。住宅ローンが完済されている場合、固定資産税や修繕・リフォーム費用の支出が主な負担です。一方、家を持っていない場合は、賃貸費用が増える傾向があります。不動産の所有状況は、親の老後資金にも影響を及ぼすため、住まいの選択には注意が必要です。
資産を築くための方法
資産を築くには、収入を増やすか支出を減らすしかありません。
収入を増やすのは容易なことではありませんが、障害者家族としては、特別児童扶養手当のような支援を利用することが考えられます。特別児童扶養手当は、中程度以上の障害がある場合に利用できる支援制度で、最大20年間受けることができます。
収入を増やす方法の一つとして、投資信託が注目されています。つみたてNISAやiDeCoなどの制度を利用して、税制のメリットを活かすこともできます。支出を減らす方法も多くありますが、節税方法として所得控除を活用することができます。障害者家族にとって関連性があるので、しっかり理解しておくことが大切です。
親の遺産を子どもにどのように残すか
次に、それらの遺産をどのように子どもに引き継ぐかを考えてみましょう。
遺産の承継方法の代表例
代表的な方法は、以下の4つです。これらの方法の特徴や長所・短所を理解し、比較検討することが大切です。
- 遺言
- 信託
- 贈与
- 生命保険
障がい者の親ときょうだい児(兄弟姉妹)
これらの方法から、1つまたは複数を選ぶ際に考慮すべきなのが、障がい者の親が亡くなった後にどの子どもに遺産を残すかです。経済的、法的な判断力が必要な障がい者に多額の遺産を残す場合、適切な手続きと管理方法が問題となります。 これに対処する方法として、次の2つがあります。
- 成年後見制度の利用
- 兄弟姉妹に委ねる(「きょうだい児」とも呼ばれる)
障がい者扶養共済について
生命保険に関して、公的な障がい者扶養共済という制度があります。これは、障がい者の親が亡くなった後の不安を和らげるための公的な生命保険で、民間の生命保険とは異なるメリットが存在します。加入するかどうかは別として、その内容を理解することをお勧めします。
法的な文書を作成しよう
上記できめた方法に基づいて、法的な効力のある文書を作成することです。 この段階では、法的に有効で将来のトラブルを最小限に抑えるような文書作成が重要です。障がい者の親が亡くなった後に何か問題が生じても、障がい者の判断力に制限がある場合、適切な対応が難しいことがあります。 障がい者の親の死後の備えに関して、法的な文書を作成する際には、弁護士の助言を受けることが適切です。法的な問題に対処できるのは、基本的に弁護士のみです。
司法書士や行政書士では対応できない業務範囲
司法書士や行政書士では対応できない業務範囲も以下のような点が挙げられます。
複雑な法的手続きの支援
障がい者や高齢者の親の死後には、遺言書の作成や信託の設定など複雑な法的手続きが必要です。特化した弁護士は、これらの手続きに関する深い知識と経験を持ち、適切な指導と支援を提供できます。
法的なトラブルへの対応
遺産分割や相続関連のトラブルが発生する可能性があります。特化した弁護士は、法的な紛争にも対応できるだけの専門知識を備えており、適切な解決策を提案してくれます。
成年後見制度の設定と管理
成年後見制度は、判断能力の制限がある人の法的な保護を提供します。特化した弁護士は、制度の設定から適切な後見人の選定、後見人とのコミュニケーションまでサポートします。
家族信託の設定
高齢者や障がい者の親が家族信託を設定する場合、その特有のニーズを理解し、信託の目的を達成するための戦略的なアドバイスを提供できます。
障がい者の法的権利保護
障がい者の権利保護や差別撤廃に関する法的アドバイスも重要です。特化した弁護士は、障がい者の権利を守るための手段や対策を提供します。
複雑な家族構成の考慮
高齢者や障がい者の家族構成は多様です。特化した弁護士は、複雑な家族事情を理解し、それに合わせた遺産分割や法的手続きのアドバイスを提供します。
家族の調整とコミュニケーション
遺産分割や財産の管理においては、家族の調整とコミュニケーションも重要です。特化した弁護士は、家族の間での問題を解決するためのアドバイスや仲介を行います。
これらの業務範囲は、司法書士や行政書士の職務外であり、特化した弁護士にしか提供できない専門的なサービスです。特に障がい者や高齢者の親の死後の備えにおいては、これらのサービスがより適切なアドバイスやサポートを提供する上で重要な要素となります。
まとめ
障がい者の親亡き後の未来への準備は、思いやりと計画性が必要な大切なテーマです。このステップガイドが、障がい者やその家族が適切な情報を得て、必要な対策を講じる手助けとなることを願っています。親の優れたサポートに加えて、計画的な行動を通じて、障がい者の未来はより安定したものとなり、家族全体が心地よい未来に向けて歩みを進めることができるでしょう。
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