子どもが家では問題なく喋れるのに、学校ではまったく喋れない場合は、専門機関の受診が重要かもしれません。この記事では、場面緘黙と呼ばれる会話に関わる障がいに焦点を当て、その症状や原因、治療法について詳しく解説します。場面緘黙の特徴や現れる兆候について理解を深めることで、この障がいを持つ子どもたちやその家族が抱える苦悩に対して共感し、サポートの重要性を伝えたいと考えています。また、専門家による治療法や支援方法もご紹介し、子どもたちが自信を持ってコミュニケーションをとれるようにするためのヒントを提供します。ぜひ最後までお読みいただければ幸いです。
場面緘黙について知ろう
「場面緘黙(ばめんかんもく)」とは、特定の環境でのみ話すことがほとんどできなくなる症状のことを指します。一般的には選択性緘黙とも呼ばれ、リラックスした環境では問題なく話せる人でも、緊張する場面で言葉が出なくなる現象を示します。
情緒障がいの一種である場面緘黙は、日常生活に大きな影響を及ぼします。この症状は一般的に5〜6歳ごろに周囲が気付くことが多く、学校や社会での活動が増えると症状が顕著になります。時には小中学生で発症することもあり、初期段階で適切な治療を受けないと大人になっても症状が残ります。生活に支障をきたす可能性があるため、早期の発見と適切な治療が重要となります。
情緒障がいとは
情緒障がいとは、情緒の表現が極端に偏った状態であり、自分ではうまくコントロールできないx症状を指します。文部科学省によると、情緒障がいは周囲の環境から受けるストレスによって引き起こされ、その心身の状態を自己の意思でコントロールできない持続的な状態を意味します。
喜怒哀楽など、心の動きを表す「情緒」は自分が意図しない形で揺れ動き、言動に大きな影響を及ぼす場合に情緒障がいとされます。この症状は大人から子どもまで発症する可能性がありますが、通常は一時的で自然に解消します。ただし、社会生活に影響を及ぼす程度の症状が繰り返し現れる場合には、適切な治療が必要です。
場面緘黙の診断基準
場面緘黙の診断には「DSM-5」と「ICD-10」という2つの診断基準が一般的に使用されています。以下ではそれぞれの診断基準について紹介します。
DSM-5の診断基準
DSM-5は「精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版」の略称で、世界各国で精神疾患の診断基準として広く利用されています。場面緘黙の診断基準は、以下の要件を満たす必要があります。
- 他の状況で話すことができるにもかかわらず、特定の社会的状況(例:学校)で話せないこと
- その障害が学業や職業、対人的コミュニケーションに影響を与えていること
- その障害が少なくとも1ヶ月(学校の最初の1ヶ月に限定されない)持続していること
- 話すことができない原因が、話し言葉の知識や楽しさの欠如ではないこと
- その障害が他のコミュニケーション症や自閉スペクトラム症などの他の精神疾患とは異なること
ICD-10の診断基準
ICD-10は「国際疾病分類 第10版」の略称で、精神や行動の障害を分類する国際的な基準です。場面緘黙の診断基準は、以下の要件を満たす必要があります。
- 言語理解能力や表出性言語能力が正常またはほぼ正常であり、特定の条件下では話せない病態
- 会話が情緒的に決定されることが特徴であり、ストレスによって引き起こされることが多いこと
これらの診断基準は専門家によって判断されるべきであり、自己判断せず専門機関での相談が重要です。
年齢による場面緘黙の症状の違い
場面緘黙の症状は、子どもと大人では大きく異なります。それぞれの症状と影響について理解することで、早期の対応や適切な治療に繋がるかもしれません。
場面緘黙の症状
子どもと大人それぞれの場面緘黙の症状について解説し、具体的な症状をリストアップしてみました。自分や身近な人に当てはまる症状がある場合は、専門機関を受診し、適切なサポートを受けることが重要です。
子どもの場合
子どもの場合は、家庭と学校でのコミュニケーションの難易度が大きく変わる症状が顕著です。以下に、子どもの場合に見られる症状をリストアップしました。
子どもの症状 |
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家族以外との会話ができない |
授業で発表する際に声が小さくなる |
学校ではまったく喋らず表情の変化も乏しい |
特定の友だちとは喋れるが、ほかの子どもとは喋れない |
これらの症状は友人関係に大きな影響を及ぼすことがあります。場合によっては、先生とうまく関係を築けず、学校生活全般が苦痛になってしまうこともあります。勉強に関する質問ができず、成績に影響する子どもも少なくありません。
大人の場合
大人の場合は、職場でのコミュニケーションに影響する場面が多く見られます。仕事に大きな影響を及ぼし、収入にも響くケースも多いため、早期の治療が必要です。以下に、大人の場合に見られる症状をリストアップしました。
大人の症状 |
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職場で上司に質問しようとすると声が出なくなる |
取引先と電話をするだけでも極度に緊張する |
会議で発言しようとすると言葉が詰まる |
大勢の前でプレゼンするのが困難 |
転職・就職面接でうまく喋れない |
大人の場合、症状を自覚しているにもかかわらず「会話が苦手だから」と自己否定することがあります。しかし、これらの症状は自力で治すのが難しい場合が多いです。適切な治療を受ければ、少しずつ会話できるようになり、仕事や日常生活が円滑に進む可能性が高まります。
場面緘黙の原因・理由とは
場面緘黙の原因・理由は、まだ完全には解明されていませんが、個人の気質や環境の要因が影響すると考えられています。以下では、発症する原因・理由について詳しく探ってみましょう。理解することで、症状に対するアプローチや対応策を考えやすくなるでしょう。
個人の気質
場面緘黙の原因・理由には、個人が生まれ持った気質が関与する可能性があります。主な原因として考えられるのは、以下の点です。
主な原因
- 人見知りや不安を感じやすい性格
- 人の目を気にする傾向
- あがり症の傾向
- 自閉症スペクトラム障害などの発達障害
緊張や恐怖を感じやすい性格が、場面緘黙の発症につながる場合があります。特に不安や緊張と緘黙は、脳の一部である「扁桃体」の働きに関連しています。また、発達障害によっても場面緘黙の症状が現れる場合がありますが、個別に判断される必要があります。
環境の要因
場面緘黙の原因・理由には、周囲の環境も大きく影響を与えるとされています。以下のような環境要因が、発症のきっかけとなることがあります。
主な原因
- 他人からの怒鳴りつけや批判的な言動
- 大勢の人から笑われるなどの屈辱的な経験
- 発言に対して指摘されることが多い環境
- 学校や職場の環境の変化
人との関わりで不安や恐怖を感じる経験が、場面緘黙の原因となることがあります。特に負の経験が続く場合は、症状が悪化する可能性があります。環境の変化にも注意が必要で、ストレスを和らげる方法を見つけることが大切です。
以上の原因・理由を把握することで、場面緘黙に対する適切なアプローチやサポートが見つけやすくなるかもしれません。
場面緘黙に対する効果的なアプローチ
場面緘黙を治療する方法にはいくつかのアプローチがあります。以下の方法が考えられます。
専門家のサポート
精神保健専門家や言語療法士など、経験豊富な専門家のサポートを受けることが重要です。個々の症状や背景を理解し、適切な治療プランを立てることができます。
認知行動療法(CBT)
CBTは、認知(考え方)と行動を変えることを通じて問題を解決する心理療法の一種です。症状に対する認識や対処方法を改善し、自信をつけるのに役立ちます。
薬物療法
一部の場合には、薬物療法が検討されることもあります。抗不安薬や抗うつ薬が使用されることがありますが、専門医の指導の下で適切な薬物治療が行われます。
カウンセリング
専門の心理カウンセラーや精神保健専門家のサポートを受けることで、自己理解や感情の整理を行い、緘黙を改善する方法を学びます。
TMS治療
トランスクラニアル磁気刺激(TMS)は、脳の特定の領域に磁気刺激を与えることで、神経活動を調整する治療法です。場面緘黙の治療においても研究が進められていますが、まだ実用化されているわけではありません。
サポートグループ
場面緘黙を持つ他の人々と交流することで、理解や共感を得られる場合があります。サポートグループに参加することで、孤立感を軽減することができます。
リラックス法
緊張を和らげるためにリラックス法を取り入れることで、場面緘黙に対するストレスを軽減することができます。深呼吸、瞑想、ヨガなどが役立つ場合があります。
まとめ
言葉の力は限りなく広がる可能性を秘めています。場面緘黙と向き合うことで、多くの人々が自らの心を解放し、豊かなコミュニケーションを楽しむことができるでしょう。理解とサポートの力が広がり、未来に向けた希望への一歩が踏み出されることを願っています。場面緘黙に挑む勇気ある皆さんに、心温まる鼓舞と支援を贈ります。