吃音(きつおん)は、言葉を話す際に音や言葉がつっかえる症状を指します。この記事では、吃音についての基本的な情報を紹介し、その原因、症状、診療科の選び方、相談先について詳しく解説します。吃音に関する理解を深め、必要なサポートや治療を受けるためのステップについて知識を深めていきましょう。
吃音についての理解、発話のスムーズさを乱す症状
吃音とは
吃音、または吃音症とは、「どもる」や「スムーズに話せない状態」を指し、別名「小児期発症流暢障害」とも呼ばれます。これは、約100人中5~8人の割合で発生し、ほとんどが幼少期に発症します。約95%の人が4歳までに症状を経験します。吃音は自然に治ることもありますが、大人になっても症状が持続することもあります。
吃音は個人差があり、特定の状況でより頻繁に発生することがあります。たとえば、特定の難しい言葉を発音しなければならない場面や、周囲の注目を気にしすぎる場面、不安な状況、吃音を意識しすぎる場面などです。
吃音のある人には、特定の音や言葉が難しいと感じる場合があります。また、吃音が周囲から笑われたりからかわれたりした経験があると、周囲の評価を気にし、言葉を発することが恐怖と結びつくことがあります。緊張、不安、過度な自己意識が吃音を誘発する要因となります。
症状
吃音(きつおん、どもり)は、話し言葉がスムーズに出ない発話の障害です。単に「スムーズに話せない(非流暢な話し方)」と言っても、吃音に特有の非流暢さがいくつかあります。これらの特徴的な非流暢さには、次の3つがあります。
- 音の繰り返し(連発):例えば、「か、か、からす」
- 音を引き伸ばす(伸発):例えば、「かーーらす」
- 言葉が出せずに一時停止する(難発、ブロック):例えば、「・・・・からす」
これらの話し方が、発話の滑らかさやリズムを乱すものであり、それが吃音として定義されています(ICD-10、WHOによる)。
吃音の分類と原因、発生率、患者数
吃音の原因について、わかりやすく説明します。
吃音のほとんどの原因は、個々の子供の生まれつきの性格や体質に関連しており、親の育て方には関係ありません。吃音がある子供たちは、一般的に言語発達が優れている傾向があります。彼らは多くの言葉を知り、次の言葉や文を考えながら話していますが、口から言葉が滑らかに出てこないことが原因です。
吃音の子供の半数以上は、小学生になるまでに症状が改善しますが、10代後半や成人になってから発症する場合もあります。吃音が長期間続く可能性が高いのは、男児で、家族に吃音の人がいる場合、また発症から3年以上経っても症状が持続する場合です。
吃音は、発達性吃音と呼ばれ、体質的な要因、発達的な要因、環境要因が相互に影響し合って発生することがあります。また、獲得性吃音と呼ばれ、神経学的な疾患、脳損傷、心的なストレスなどによって発症することもあります。これにより、各子供の発達に異なる要因が組み合わさって吃音が現れると考えられています。
吃音
吃音は次の2つに分類されます。
- 発達性吃音
- 獲得性吃音
発達性吃音
吃音の9割は発達性吃音です。発達性吃音は以下の特徴があります
- 幼児期の2語文以上の複雑な発話を始める時期によく発生します。
- 通常、幼児期(2~5歳)に現れ、小学校以降にも発症することがあります。
- 幼児期の発症率は約8%前後で、国や言語による差はほとんどありません。
- 有病率(吃音のある人の割合)は、全人口の約0.8%前後で、男性に多く見られます(男性と女性の比率は2~4:1程度で、年齢や調査により異なります)。
吃音の発症についての要因とは
吃音の発症には以下の要因が影響し合っています
- 体質的要因(子ども自身が吃音になりやすい体質的特徴を持つこと)
- 発達的要因(身体、認知、言語、情緒の爆発的な発達時期の影響)
- 環境要因(周囲の人々との関係や生活上の出来事)
報告によれば、体質的要因(遺伝的要因)が吃音の発症に約8割の影響を持つとされています。
獲得性吃音
一方、獲得性吃音には2つのタイプがあります:
- 神経学的な疾患や脳損傷によって発症する獲得性神経原性吃音。
- 心理的なストレスや外傷体験に続いて生じる獲得性心因性吃音。
これらは通常、青年期以降(10代後半から)に発生します。ここでは、話を発達性吃音に絞って説明します。
発達性吃音の発生と進行
発達性吃音は、多くの場合、軽度な音の繰り返し(例:あ、あ、あのね)から始まります。興味深いのは、うまく話せる時期もあるという特徴です。これを「波がある」と表現することもあります。発達性吃音の7~8割は自然に改善し、残りの2~3割は症状が進行していくことがあります。進行すると、最初の言葉を発することが難しくなります。
発話中に吃音が現れると、笑われたり、「ゆっくり話してごらん」と指摘されたり、自身でも身体の問題を感じたりすることがあります。これにより、話すことや吃音そのものに嫌悪感や不安が生まれ、古典的な条件づけが形成されます。
何らかの工夫(例:身体を動かし勢いをつける、最初に「あのー」と言葉を付ける)で偶然言葉が出た経験があると、難しい場面ではその方法を常に使用する傾向が生まれます(道具的学習)。
このように、吃音症状だけでなく、二次的な行動や特徴が見られることがあります。
心理的側面
子供たちは最初、軽い吃音の繰り返しにはあまり気づかないことが一般的です。しかし、頻繁に吃音を経験したり、言葉が出ないことに遭遇すると、その症状自体に驚いたり、スムーズに話せないことに不満を感じることがあります。それでも、幼少期には、これらの感情が通常、一時的なものです。しかし、吃音が成長とともに定着し、話すことがますます難しくなると、周囲から指摘を受ける機会が増え、子供たちは自分の言葉の出しにくさをはっきりと自覚し始めます。その結果、話す前に不安を感じることが増え、吃音を恥ずかしいと感じたり、話す場面に恐れを抱くことがあります。このような心理的な影響は、吃音の経験が増えるにつれて強まる傾向があります。
吃音が起こりやすい場面とは?
吃音が発生しやすい状況について、以下のような場面があります。
複雑な話し方をするとき
新しい言葉を使おうとしたり、難しい文章を構築しようとしたり、感情が高ぶって急いで話そうとしたとき、吃音がより頻繁に発生することがあります。特に幼児期には、まだ言語スキルが完全に発達していないため、複雑な言葉や表現を使用しようとすると、吃音がより現れやすくなります。
プレッシャーや不安を感じるとき
プレッシャーや不安を感じている場面や、吃音を避けるために意識しすぎているとき、吃音が増えることがあります。例えば、運動会前や発表会前、学校で音読しなければならない場面、多くの人の前で発表をするとき、また、苦手な発音の言葉を発しなければならない場面で吃音が増えやすいです。
吃音について指摘やからかいを受けた場合、吃音を意識しすぎてしまうことがあります。しかし、吃音を過度に気にすることは、逆に症状を悪化させることがあるため、周囲のサポートと協力が重要です。
年齢による吃音の特徴
年齢による吃音の特徴を理解しやすくテーブルにまとめます。
年齢 | 特徴 |
---|---|
幼児期(2~4歳頃) | – 音の繰り返し(連発)や引き伸ばし(伸発)の症状が多い – 多くの子供が発語が上手くいかずに苦労するが、全てが吃音症とは診断されない – この時期に吃音が発症しても、半数以上が小学校に入る前に症状が消える |
学童期(6~12歳頃) | – 言葉に詰まる難発の症状がよく見られる – 自己工夫を始める年齢で、言葉を言い換えるなどの方法を試すことがある |
思春期(12~18歳頃) | – 工夫により吃音症であるにもかかわらず、スムーズに話すように見える場合が多い – 症状が出ることを恐れ、人前で話す場面や状況を避ける傾向がある |
成人期(18歳~) | – ほんのわずかな人が、18歳以上になっても症状が残る – 吃音の症状が出る場面や状況を避ける傾向があるが、社会人としての仕事で回避できない場面もある – 自身で仕事上で工夫することが多い |
吃音の診断
吃音は、アメリカ精神医学会DSM-5で「小児期発症流暢障害」として診断されます。この診断基準には以下の特徴が含まれます。
- 会話の正常な流暢性と時間的構成に関する困難があり、その人の年齢や言語スキルに不釣り合いです。
- 長期間にわたり、話すことに対する不安や、コミュニケーションの効果的な実施、社会参加、学業、または職業遂行能力に制限をもたらします。
- 症状の始まりは発達期早期であり、言語運動、感覚器の欠如、神経損傷、または医学的疾患によるものではありません。
吃音は、子供の場合には平均して2~4歳の20人に1人、大人の場合には100人に1人の頻度で発生する一般的な障害です。子供の場合、吃音の症状は目立ちやすい傾向がありますが、大人になると自分で発語を工夫し、習慣化されている場合もあります。
吃音の治療と対処法
吃音には特定の治療方法はまだ存在しませんが、症状を軽減する方法がいくつかあります。こういった方法は、吃音のある個人の年齢、症状、成長段階、家庭状況に合わせて適用されるべきです。以下に、吃音の治療と対処法の具体例を示します。
子供の場合
- 環境の調整: 吃音の子供に対して、話す環境を支援的に調整することが重要です。
- 楽な発話を促す: 余裕のある状況で発話を促し、ストレスやプレッシャーを減少させることが大切です。
- 発話訓練: 吃音を専門的に治療する言語療法士の指導を受けることが効果的です。小児版流暢性形成訓練も一つの選択肢です。
大人の場合
- 言語聴覚士による訓練: 吃音症の大人は、リハビリテーション科のある病院や耳鼻咽喉科で、専門の言語聴覚士による言葉の訓練を受けることが効果的です。
- 環境の調整: 仕事で吃音が問題となる場合、業務の進め方やコミュニケーション方法を工夫し、環境を調整することが必要です。
- 伝達方法の工夫: 吃音の症状に注意を向けず、相手に伝わる方法を工夫してみることが役立ちます。図や写真、ジェスチャーを活用し、効果的なコミュニケーションを図ることができます。
仕事における重要なポイント
- 支援の活用: 発達性吃音は、発達障害者支援法の対象疾患として認識されています。医師の診断に基づいて障害者手帳を取得することで、就職時に障害者枠での採用が可能となり、合理的な配慮を受けやすくなります。
吃音症のある人が仕事を続けるためには、環境の調整、伝達方法の工夫、そして必要に応じて支援を活用することが重要です。
吃音のある人への適切な対応方法
吃音のある子供に接する際、以下のアドバイスを心に留めてください。これによって、子供が自信を持ち、コミュニケーションを円滑に行えるようになります。
- 焦らない: 子供が吃音で言葉に詰まっても、焦ることなく待ってあげましょう。急かすと症状が悪化することがあります。
- 聞くことに集中: 子供が話している内容に注意を向けて、最後まで耳を傾けましょう。言葉の流暢さよりも、伝えたいメッセージを理解することが大切です。
- 注意を分散させる: 吃音を気にせず、子供の話に興味を持って対話を楽しむようにしましょう。言葉の詰まりにフォーカスせず、コミュニケーションを楽しむことが大切です。
- 指摘を避ける: 吃音を指摘したりからかったりすることは避けましょう。子供の自己肯定感を高め、安心感を与えることが重要です。
- 専門家の支援: 吃音が気になる場合、言語聴覚士と協力して効果的なコミュニケーション戦略を開発することを検討しましょう。
大人の吃音の場合
大人の吃音の場合でも、以下のアドバイスが役立つでしょう
- コミュニケーションの積極的な取り組み: 吃音を隠すことなく、積極的にコミュニケーションを取りましょう。周囲の理解と自己訓練が重要です。
- 自己肯定感の向上: 発言の練習や自己訓練を通じて、自己肯定感を高める努力を行いましょう。
- 家族や友人との協力: 吃音について家族や友人と話し合い、共に対処策を考えることが大切です。
吃音についての理解と協力が、吃音のある人が健康的なコミュニケーションを築く手助けとなります。
吃音の受診先はどこ?
吃音の相談や診察に適した病院や科について、以下の情報を提供します。
吃音の相談
一般的には耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、心療内科などで受けることができます。特に耳鼻咽喉科では、言語聴覚士による訓練が行われることもあります。受診前に病院のウェブサイトや連絡先を確認し、吃音に関する専門的なサポートを提供しているかどうかを確認しましょう。
発達障害に関する相談先を探す
発達障害に関する相談が必要な場合、以下の機関や窓口を利用することができます。
市町村保健センター
健康相談や保健指導を行う地域の機関で、発達に関する悩みを聞いてくれる発達相談窓口があります。必要に応じて医療機関への紹介も行います。お住まいの市役所や区役所の窓口で、吃音に詳しい病院を紹介してもらえることもあります。
発達障害者支援センター
発達障害の方の総合的な支援を提供する施設で、家族や関係機関からの相談を受け付けています。家庭での関わり方についてのアドバイスや、福祉制度や医療機関の紹介などを行います。電話相談も受け付けている場合があります。
ことばの教室
学齢期の子どもの場合、学校に設置されていることばの教室で教育相談や通級指導を受けることができることがあります。学校によって設置されていない場合もあるため、担任の先生に確認してみましょう。
これらの機関や窓口を利用することで、発達障害に関する相談やサポートを受けることができます。
まとめ
吃音は、発話において困難を抱える多くの人々に影響を与えていますが、適切なサポートと理解があれば、日常生活での挑戦に立ち向かうことができます。吃音に悩む方やその家族は、適切な医療機関や専門家の協力を得て、言語の困難に立ち向かう手助けを受けることができます。お役立ち情報が、吃音について理解を深め、支え合うための第一歩となることを願っています。