ADHD(注意欠如・多動症)とASD(自閉スペクトラム症)は、発達障がいの一つであり、注意力や社会性などの特性が異なります。本コラムでは、行動・場面に焦点を当て、ADHDとASDの違いについて詳しく解説します。各特性ごとに症状と診断について理解し、適切な支援を受けるためのポイントを探っていきましょう。
ADHD(注意欠如・多動症)の特性・症状
ADHD(注意欠如・多動症)には、不注意型と多動型の2つの主な特性があります。
不注意型(Inattentive Type)
- ミスや忘れ物、無くし物が多い傾向があります。
- 仕事や学業のタスクに集中することが難しく、注意散漫な行動が見られることがあります。
- 言われたことを理解することができない場合や、指示を守ることが難しいことがあります。
多動型(Hyperactive-Impulsive Type)
- 思いついたことを即座に実行してしまう行動が見られます。
- 他の人の話に割り込んで一方的に話し続けることがある場合があります。
- 落ち着かず、座っていることが難しいことがあります。
大人になると、多くの場合、多動性の症状は落ち着いてきますが、不注意の特徴が残ることがあります。ただし、成人期においても問題を引き起こす場合があるため、適切なサポートや治療が必要な場合があります。
なお、ADHDの症状は個人差があり、軽度から重度までさまざまな状態が見られます。早期の診断と適切な支援が、個々の症状や特性に応じた適切な対応を行う上で重要です。
ADHDの特性:不注意、多動性、衝動性の具体的な例を紹介
ADHDの特性には、不注意、多動性、衝動性の3つの主な要素があります。具体的な例として、以下のような行動や症状が挙げられます
不注意の例
- 話を振られているのに気づかない・話を聞いていない
- 大切なものをなくしてしまったり、提出期日や約束を守れない
- 無関係な外部からの刺激に弱い
多動性の例
- 落ち着きがない
- じっとしていられない
- 人の話を聞かずに一方的に喋り続ける
- 話を始めると止まらなくなる
衝動性の例
- 他人の物でも許可を取らずに勝手に使ってしまう
- 車の運転でスピードを出し過ぎたり危険な追い越しを繰り返す
- 質問が終わる前に答えてしまう
これらの特性は、ADHDの個人差によって程度や組み合わせが異なります。適切な診断とサポートにより、個々の症状に応じた適切な対応が行われることが重要です。治療や支援により、生活の質を向上させることが可能となります。
ASD(自閉スペクトラム症)の特性・症状
ASD(自閉スペクトラム症)の主な特性と症状を以下にまとめます。
社会的コミュニケーションや対人関係が苦手
- 相手の気持ちを理解することが難しく、適切な返答が難しいことがあります。
- 表情や非言語的なサインを理解するのが難しい場合があります。
- 自分の興味に熱中して他人とのコミュニケーションに慣れないことがあります。
こだわりが強く、特定のことに興味や関心を示す
- ルールやルーティンを崩すことに抵抗を感じる場合があります。
- 特定のテーマやトピックに対して深い知識と興味を持つことがありますが、それ以外の分野には興味を示さないことがあります。
感覚過敏・感覚鈍麻
- 感覚過敏は、外部の刺激に対して過敏に反応し、痛みや不快感を感じやすい状態です。
- 感覚鈍麻は、感覚の受容が鈍くなり、刺激に対して適切な反応を示さないことがあります。
これらの特性はASDの個人差によってさまざまな形で現れます。また、ASDの症状は幼少期から現れる場合もあれば、成長とともに進化・変化することもあります。早期の診断と適切な支援が、個々の特性に応じた適切なサポートを提供する上で重要とされています。
ADHDとASDは併発することも
ADHDとASDが併発することは珍しくありません。両者は共通点や相違点もありますが、併発することでその特性が相乗的に影響し合い、本人の社会適応度に影響を及ぼす場合があります。両方の特性が合わさることで、以下のような状況が生じる可能性があります。
- 不注意でミスが多いため、学校や職場での成績や業務に影響を与える。
- 社会的コミュニケーションが苦手なため、人間関係の構築やコミュニケーションに問題が生じる。
- チームワークが必要な活動において、周囲とのトラブルが増える。
これらの要因が、本人の社会的な適応に課題をもたらす可能性があります。そのため、両方の特性を理解し、適切な支援やサポートを提供することが重要です。
個々の症状や特性に合わせて、個別の対応策を検討することで、本人の能力を最大限に引き出し、社会への適応をサポートすることができます。家族や学校、職場、専門家の連携が必要な場合もありますが、適切な支援を受けることで、より良い生活を送ることができるでしょう。
ADHDとASDの診断基準は難しい
ADHDとASDの診断は確かに難しいことがあります。両者は一部の症状が重なるため、専門医が適切に診断することが重要ですが、完全に区別することが困難な場合もあります。
重要なのは、診断名やカテゴリーにとらわれることではなく、本人の困りごとやニーズに対して適切なサポートや対処法を見つけることです。個々の症状や特性に合わせて、個別の支援を提供することで、本人の生活の質を向上させることができます。
グレーゾーンである場合でも、適切な支援を受けることで、より過ごしやすい環境や生活を築くことができます。家族や学校、職場、専門家の連携が重要であり、早期のサポートや介入が必要な場合もあります。
最終的な目標は、本人の個々のニーズに合わせた適切な支援を提供し、より豊かな生活を送ることです。それには診断名にこだわるのではなく、個別の困りごとに焦点を当て、適切なサポートを提供することが不可欠です。
行動・場面で見るADHDとASDの違い
行動・場面別にADHD(注意欠如・多動症)とASD(自閉スペクトラム症)の違いを以下に紹介します。
注意力・集中力
ADHD(注意欠如・多動症) | ASD(自閉スペクトラム症) |
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注意散漫で、長時間の集中が難しい傾向があります。気が散りやすく、タスクの終了までの計画が立てにくいことがあります。 | 特定の興味に対しては熱中することができますが、注意散漫なこともあります。一般的な注意力に課題を抱える場合があります。 |
社交性・コミュニケーション
ADHD(注意欠如・多動症) | ASD(自閉スペクトラム症) |
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社交的でコミュニケーションに積極的な場合もありますが、注意散漫なため相手の話に集中できないことがあります。 | コミュニケーションの障害が特徴であり、他者の感情や意図を読み取ることが困難な場合があります。非言語的なコミュニケーションも苦手とされます。 |
行動の自己制御
ADHD(注意欠如・多動症) | ASD(自閉スペクトラム症) |
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衝動的な行動が見られることがあります。思いついたことを即座に実行してしまうことや、予測せずに行動することがあります。 | 行動の制御に難がある場合もありますが、ADHDほどの衝動性は一般的には見られません。こだわりが強いため、ルーティンを重視することが特徴的です。 |
興味関心・こだわり
ADHD(注意欠如・多動症) | ASD(自閉スペクトラム症) |
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短期的な興味があり、興味が移りやすいことがあります。特定のこだわりを持つことは少ない傾向があります。 | 特定の興味に熱中することがよくあり、独自の興味関心が顕著です。こだわりが強いことが特徴的です。 |
感覚過敏・感覚鈍麻
ADHD(注意欠如・多動症) | ASD(自閉スペクトラム症) |
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感覚過敏や感覚鈍麻は特徴的ではなく、一般的にはASDに比べて顕著ではありません。 | 感覚過敏や感覚鈍麻が見られることがあります。外部刺激に過敏な反応を示すことや、痛みに鈍感なことがある場合があります。 |
仕事
ADHD(注意欠如・多動症) | ASD(自閉スペクトラム症) |
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タスクを終えるまでの計画や時間管理に苦労することがあります。細かなミスや忘れ物が発生しやすい場合もあります。 | こだわりが強く、ルーティンを重視する傾向があります。一つの仕事に対しては集中力を発揮することができますが、他の仕事に移る際に切り替えが難しい場合もあります。 |
整理整頓
ADHD(注意欠如・多動症) | ASD(自閉スペクトラム症) |
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整理整頓が苦手で、物を整理することが難しいことがあります。物の場所を覚えることが難しい場合もあります。 | 整理整頓にこだわる場合もありますが、こだわりの対象は個人差があります。 |
運動
ADHD(注意欠如・多動症) | ASD(自閉スペクトラム症) |
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多動性が特徴的で、じっとしていられないことがあります。運動活動を好む場合もあります。 | 運動の興味は個人差がありますが、一部の人は特定の運動に熱中することがあります。 |
これらの行動・場面に関する特性はADHDとASDの個人差によって異なります。診断や支援は専門家による詳細な評価と連携が必要であり、個々の特性に合わせた適切な対応が重要です。
ADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)の判断は専門医を受診が大切です
ADHDやASDの判断は専門医による詳細な評価が必要であり、ネット上のセルフチェックリストだけでは確定的な診断を得ることはできません。
自己診断によって不安を抱えたままにせず、気になる症状や困りごとがある場合は、早めに専門医を受診することが重要です。適切な診断を受けることで、個々の特性に合わせた対処法や支援を受けることができ、より過ごしやすい生活を送ることができるでしょう。
また、思いがけない病気や他の要因による症状も考慮する必要があります。子どもや本人の様子に違和感を感じたら、適切な医療機関や専門家に相談することが大切です。
早期の診断と適切な支援が、個々の特性に応じた適切なサポートを提供する上で重要な要素となります。家族や周囲のサポートと連携しながら、本人の健康と幸福をサポートしていくことが大切です。
ADHDやASDについて相談できる機関
正確な判断と適切な支援を受けるためには、専門の相談機関を利用することが重要です。以下はADHDやASDについて相談できる主な機関の一例です。
発達障がい者支援センター
発達障がいの本人や家族が相談できる機関で、総合的な支援を行います。福祉制度や医療機関の紹介も行っており、未診断の場合でも利用可能です。
相談支援事業所
障がいのある人が日常生活を送れるように支援する機関で、福祉サービスの利用方法などにアドバイスを提供します。
障がい者就業・生活支援センター
障がいのある人が就職や生活において自立できるように支援する機関です。就労支援事業所も就職支援に特化しています。
市町村保健センター
地域の保健や衛生を担う機関で、子どもの発達に関する相談も受け付けています。
子ども家庭支援センター
子どもに関する様々な相談を受け付ける総合的な支援機関で、家庭と子どもに関する問題に対応します。
児童発達支援センター
ADHDやASDの子どもに対し、個別プログラムを作成した支援を提供する機関です。
これらの機関は地域によって異なる場合もありますが、市区町村の福祉窓口を訪ねると、適切な相談機関の案内を受けることができるでしょう。診断や支援を受けることで、適切な対応やサポートが得られるようになります。
dekkun.では、自分の住んでいる地域の相談機関などを検索できます
https://dekkun-hattatsu.com/facility/
受診・相談をするときのポイント
子どもの頃の様子や症状を整理しておく
医師に適切な情報を伝えるために、子どもの頃からの様子や特徴を整理しておくと役立ちます。学校や保育園の成績や行動記録、発達の過程で観察された特性などをまとめて持参しましょう。
専門医の受診
ADHDやASDの診断は専門の医師による評価が重要です。精神科医、児童精神科医、発達科医などの専門家が適切な診断を行います。症状や特性の詳細な話し合いを専門医と行うことで、適切なサポートが得られます。
サポートグループの利用
発達障がいに関するサポートグループや情報交換の場を活用すると、他の家族や本人との交流ができます。共感や理解を得られることで心の支えになります。
自己の理解と受容
発達障がいを持つ自分自身や家族としてのアイデンティティを受け入れることが大切です。自己肯定感を高めることで、より前向きにサポートを受けることができます。
環境づくりの理解
発達障がいに合わせた適切な環境づくりが重要です。学校や職場、家庭などの関係者と連携し、適切な支援や配慮を行うことで、本人の発達をサポートします。
複数の専門家と連携
必要に応じて、心理士、言語聴覚士、作業療法士など複数の専門家と連携することで、より総合的なサポートが受けられる場合があります。
定期的なフォローアップ
診断後も定期的なフォローアップを受けることで、サポートの進捗や必要な調整を行うことができます。状況の変化に合わせて適切な対応ができるよう、医師と連携していきましょう。
以上のポイントを意識して、適切なサポートを受けることで、ADHDやASDを持つ本人や家族の生活の質を向上させることができます。
まとめ
ADHDとASDの違いを理解することは、適切な支援を受けるために欠かせません。それぞれの特性が持つ症状と診断基準に目を向けることで、本人や家族が生活をより良くするための道しるべとなるでしょう。専門医による正確な診断と適切なサポートを受けながら、充実した生活を送ることが目指せます。発達障がいに対して気になる点があれば、迷わず相談してみましょう。